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音楽の話がメインの日記帳です。

 Sun Kil Moon こと Mark Kozelek。彼が今年リリースした『Benji』は、Stereogum の「2014年上半期のベスト・アルバム第1位」に選ばれ、Pitchfork は本作に9.2という(Swans と並んで)今年ここまで最高得点をつけています。辛口の Tiny Mix Tapes でも4.5/5など、今年を代表するアルバムのひとつといって間違いないでしょう。
 前回の記事でも触れましたが、そのマーク・コズレック、ただいま絶賛炎上中(もう鎮火気味かな?)。The War on Drugs(以下WoD)とのビーフが白熱しているようなので、僕の英語力の届く範囲で経緯をまとめてみました。
Sun-Kil-Moon1



 はじまりはオタワで行われた Ottawa Folkfest というフェスに彼が Sun Kil Moon として出演した、今年の9月14日のこと。最新作『Benji』から「Dogs」を披露しようとしたとき、同時にライブをやっていたメイン・ステージの音漏れに気が散って、苛立っていたコズレックが「このやかましいのは誰だ?」とこぼすと、観客の一人が「フィラデルフィアの War on Drugs ってバンドだよ」と返した。するとコズレックは「ビールのコマーシャルみたいなリード・ギターは嫌いだ」と返し、「次の曲は”The War on Drugs Can Suck My Fucking Dick”だ」と吐き捨て、残りのセットをこなしながらもぶつくさと音漏れに文句を言い続けたという(「ジョン・メレンキャンプのバンドにでも入ればいい」とか)。ソースはこちら
 この文句というのがどんな感じだったのかはちょっとニュアンスが掴みづらくて、半分は客を笑わせるためのジョークだったようだけど、実際にライブを見ていた人のツイートによると「いつもより荒れてたのは間違いない」という感じだったらしい。
 で、WoD もツイッターで「マーク・コズレックが俺らについて何か言ってたって、マジ?」みたいに反応している。その後、「ただの冗談みたいだったね、ちょっとびっくりしただけだよ」的なツイートでとりあえず WoD 側からのリアクションは終了。

 その後コズレックは、9/17に自身のウェブサイトで次のようなコメントを発表している。
 オタワでの件について、Mark Kozelek より The War on Drugs へ
先日のオタワでのライブのときまで、君らのバンドを聴いたことはなかった。でも音漏れは本当にひどくて、僕らのドラマーは僕らの音楽じゃなくて君らの音楽に合わせるほうが簡単だったと言ってたくらいだ。丘の上からがなり立ててしまうことはどのバンドの音楽でもありうることだ。そして僕はちょっとジョークを言っただけだ。
僕のステージとかぶってなければ、いつか君らのステージを見てみたいと思っている。タイムテーブルがかぶってしまったのは君らの責任じゃない、それはわかってる。今回が僕にとって3度目のオタワ「音漏れ」フェスへの出演だった。主催者の連中も理解はしてると思う。いつかもう少し改善してくれることを期待してるよ。
Peace and all the best, 
- Mark Kozelek 
 謝罪ともとれるこの文章ですが、実は明確に謝罪している部分は特になし。一方ピッチフォークは「マーク・コズレックがWoDに謝罪した」と記事を書いています。
 このあと、あちらのインディー界隈でこの件がけっこうバズったらしく、コズレックはさらに次のようなメッセージを発表。ただし現在は彼のサイトでこの文章を探しても見つからなかったので、削除しちゃったのかもしれない(PitchforkStereogumに全文が転載されていたので、それを訳しました)。
僕は The War on Drugs に謝罪していないし、彼らが10/6のフィルモアでユーモアを見せてくれることを要求する
ピッチフォーク、ステレオガム、そしてこれを読んでいる全ての人へ。僕は「War On Drugs」に謝罪してはいない。先日の僕の発言について釈明をしただけだ。あの日のジョークについては謝罪していないし、今後するつもりもない。ただ、WoDに先日の件が伝えたかっただけだ。
ものごとに「腹をたてる」ことを趣味にしてるような連中が大量に発生している。"H"ワード(訳注:先日の「fucking hillbilly」発言のこと)にいちいち腹を立ててる人は、君たちの故郷にミサイルが打ち込まれてないことを喜ばないと釣り合いがとれないよ。ロカビリーという音楽のジャンルはいまだにあるんだから、きみは不快に思うかもしれない「Hillbilly」という言葉を使うくらいは許容してほしい。
War on Drugs。 今回の悶着のおかげで、君たちのライブ音源をピッチフォークで聴いてみた。そして僕は正しいことを言っていたとわかった。君らの音楽は、ドン・ヘンリー meets ジョン・クーガー meets ダイアー・ストレイツ meets 『ボーン・イン・ザ・USA』期のブルース・スプリングスティーンという感じだ(訳注:上述の通りコズレックは9/14のステージでジョン・クーガー[aka:ジョン・メレンキャンプ]の名前を出している)。これは批評ではなく事実の指摘だ。
  僕を10月6日、フィルモアでの WoD のステージに参加させてほしい。そしたら僕が書いた「War on Drugs、俺のペニスをしゃぶれ/Sun Kil Moon、消え失せろ」という最高に陽気な曲をプレイしてみせるよ。あのビールのCMみたいなリード・ギターを僕にやらせてくれるという条件で。
僕はツイッターもフェイスブックもやってない(アルバムを作るからね)から、もしステージで僕と一緒に一笑いとるのに興味が湧いたら、広報の Robert Vickers に連絡してほしい。
- Mark Kozelek 
(太字は訳者による) 
 おいおい煽るなあ・・・と思っていたら、コズレックはどこまでマジなのか、ここで言及している「War On Drugs: Suck My Cock」という曲を「10/6の午後9時に公開する」と宣言。そして本当に公開。フリーダウンロード可

 ステレオガムいわく、ギター・ソロはドン・ヘンリーの「Boys Of Summer」という曲からパクってるそうです。SPIN は「テイラー・スウィフトの『Dear John』以降、ラッパー以外のミュージシャンが書いた最高の(少なくとも最も笑える)ディス・ソングだ」と評しています。以下、Rock Genius より歌詞全文。


 これがまた満遍なく全方位disになってて面白い。彼が「クソ田舎者」となじった Hopscotch フェスの客をディスり、それを面白おかしく Indy Week に書いたライターを「腐ったアバズレのボンボンのブロガーのガキ」と呼び、WoDの Adam Granduciel を「今晩会ったんだけどめっちゃいいヤツだった、ただ髪の毛が長くて脂ぎってて、シラミがいないといいんだけど」とおちょくる(もちろん実際は会ってない)。
 この曲のリリースは概ね趣味の良い(悪い?)ジョークとしてポジティブに受け止められ、これまで叩かれ放題だったコズレックはだいぶ巻き返しに成功したという形になりました。The Gurdian は面白がって「インディー史上最高のディス・トラックは何だ?」なんて記事を書いて、ビリー・コーガンとスティーヴン・マルクマスの関係悪化の原因となったペイヴメントの「Range Life」を持ちだしたりしています。


 あと、先日のニューヨークでのライヴの際はこの「Suck My Cock」をアンコールで披露したとのことで、「もともとはもっとジョイ・ディヴィジョンっぽくやるつもりだったんだ。だから今日はそんな感じでやるよ」と紹介。いつもアコースティック主体の彼には珍しい、JD風のアレンジでの演奏だったらしい。
読み込み中

"When I originally wrote this song I wanted to do it more Joy Division-esque, so let's try that version." Just when I thought I couldn't love Mark any more, he says he's a Joy Division fan. #WarOnDrugsSuckMyCock #MarkKozelek #SunKilMoon #LifeComplete

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 今回の一件、WoD 側からのリアクションは最初のツイート2件だけで、あとはほぼ一方的にコズレックが悪態をついている形になっています。そこからも分かる通り、この件はどちらかと言うと「コズレック vs WoD」というより「コズレック vs アメリカのネット界隈」という構図のほうが現実に即しているような気がします。ネットで叩かれまくったコズレックが逆ギレしたという形ね。
 この「ネット界隈」には例えばこんな人も含まれていて、Perfect Pussy の Meredith Graves がコズレックを厳しく批判する文章をピッチフォークに寄稿しています。その骨子は「ストレートの白人男性が『Suck My Cock』と気安く口にするのは極めて性差別的な言葉の暴力だ」というものなのですが、なかなかしっかした面白い文章です。あんま関係ないけど、なんとなく日本での「ろくでなし子」さんの事件を思い出しちゃったな。

 そして最後にこれだけは紹介しておかないといけません。ステレオガムのライター、Michael Nelson が、LCD Soundsystem の名曲をもじった「Mark Kozelek, I Love You But You’re Bringing Me Down(愛しているよ、マーク・コズレック。でもきみは僕をがっかりさせる)」という文章を書いているのですが、これがもう本当に老害感あふれる彼の徹底的な自分語りのエッセイで最高でした。
 Nelson 氏がヘヴィメタルバンド Type O Negative のピーター・スティールのサイン会に行ったとき、スティールが「最近は Red House Painters しか聴いていない」と発言していたことから RHP にドはまりして何ヶ月もそれしか聴かなかったこと、その数カ月後にリリースされた RHP の「Ocean Beach」が永遠に揺るがない氏のオールタイム・ベストであること。当時の SPIN 誌に載っていたアルバム「Rollercoaster」のレビューを今でも大切に保管していること。コズレックが4ADを離れたあと商業的成功に恵まれず、口座の差し押さえを受けたときに心から心配したこと。世間からあまりにも過小評価されていることに腹を立て続けてきたこと。
 しかし Nelson 氏は、コズレックは、ファンに対しては今も昔も変わらず、無関心で冷たいのだといいます。先日の「fuckin' hillbillies」事件のときはおしゃべりをやめない観衆に苛立ってトラッシュ・トークを飛ばしたわけですが、ブルックリンで行われたやや格式高いライヴの際は、静かに聴き入る観衆に対して「ここはクローン人間の街なのか?」と悪態をついた。コズレックにとって、ファンとは「クソのように扱う」ものなのだと
 「自分にとっては『Ocean Beach』や『Roallercoaster』のほうが遥かに名盤だけども、ようやく世間がコズレックの凄さに気づいた、2014年は喜ぶべき『Benji』の年だ」と思っていたのに、今回の騒動で「2014年はコズレックが WoD と喧嘩した年」と記憶されることになるだろう、と彼は言います。コズレックのことは人より長く見てきて、彼が他人をディスるなんて何も今年に始まったことじゃないが、WoD を執拗に挑発し「Hillbilly-Tシャツ」を売り出すような真似はみっともない、と。
 彼のエッセイは最後に WoD のツイートを引用して終わります。

 「『どうやら(コズレックは)何か冗談を言っただけみたいだね。ちょっとドキッとしただけだよ、彼のファンとしてね。僕らは僕らのやることをやるだけさ』。おわかりだろうか? WoD のGranduciel はコズレックの『ファン』なんだ。そして、クソみたいに扱われた。他のファンと同じようにね。あなたや、私と同じように。」



 僕は数年前からマーク・コズレックという人の音楽の魅力に取り憑かれてきたのですが、彼のこういうパーソナリティについては、この1ヶ月いろんな記事を読み漁って初めて知りました。これで彼への評価が変わったかというと、前よりずっと好きになったという感じです。「Hillbilly」がどのくらいアウトな言葉なのかも非ネイティブの僕にはわかりませんし、だいたい WoD のアルバムも最高だったからどっちの味方をしたいという話でもないのですが、コズレックのことが前より好きになったことだけは確かです。
 『Benji』に綴られた孤独と共感の世界の主は、予想通り偏屈な変わり者だった。ふだん歌詞をあまり意識しない僕がコズレックの詩性に惹かれた理由が少しだけ理解できたように思います。 この記事を書いてマーク・コズレックという人に「初めて」興味をもつという人なんてほとんどいないでしょうが、面白がって読んでくれる誰かがいれば嬉しいなと思います。

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