音楽とか、本とか、映画とか。最近は暇な時間をだいたい三等分しています。

 
◆Viet Cong "Viet Cong"

 カナダのポスト・パンクバンド、ベト・コン。この変なバンド名とかピッチフォークの異様なプッシュとか、どうしてもハイプ臭を感じてしまって敬遠していたんだけど、聴いてみたらすんごいカッコよかったです。インダストリアルとかノイズとかの要素はあるけど味付け程度で、これはポピュラリティを獲得したくてしょうがない性向を巧妙に隠したなんちゃってアヴァンギャルド・レコードだ。いや今の一文は完全に僕の妄想というか言いがかりというか自意識の暴走ですが、メッチャかっこいいです。あざといけどかっこいいです。


◆Sufjan Stevens "Carrie & Lowell"

 さすがスフィアンは間違いがないな! とは思うものの、これちょっと取っ付きづらくないですか? 前作までの身体に訴えかけてくるような全能の祝祭感はどこにもない。メロディがきれいな分だけ安心感はあるけど、これは去年のサン・キル・ムーンのように歌詞までちゃんと読まなきゃいけないやつかなあと思った。輸入盤のCDで買っちゃったけど、ちゃんと歌詞カードは入ってました。


◆Jenny Hval "Apocalyps, Girl"
 ここからは楽しみな新譜情報。一昨年の「Innocence Is Kinky」、去年の「Meshes Of Voice」とエクスペリメンタルな旅路を経て、今年もイェニー・ヴァルの新作が聴けるのは嬉しい限り。

 そうそう! 僕はただこの女性にこんな感じで歌って欲しかった、ただそれだけ! みたいなニューアルバムになりそう。 
 リリースは Sacred Bones から。Pharmakon や Blanck Mass みたいな振り切れたノイズ・アーティストとレーベルメイトになりつつも彼女がこうやって声で勝負をしてくれることがとても嬉しいです。アンダーグラウンドに安住するアラニス・モリセットのごとき魔術的な声に今年もメロメロにされたい。(ちなみに Blanck Mass は Fuck Buttons の片割れ、Benjamin John Power のノイズ・プロジェクト。こっちも実はすごくカッコいい)


◆Torres "Sprinter"
 米ナッシュビルのシンガー・ソングライター、マッケンジー・スコットによるプロジェクト Torres の2ndアルバムが出るようです。

 一昨年に出た1stは僕にとってけっこうスペシャルな1枚で、骨の髄までDIYな「うた」のレコードに大変感激したものだった。でも、それ以降の彼女の動きはあまりにも PJ Harvey の焼き直しで、オルタナ・クイーンに躍り出るにはいくぶん力不足だろうし、やっぱりこの人は「Honey」の時点がピークだったのかなあ・・・などと思っていました。
 ところがこの曲では彼女のもう一人のヒロイン、St. Vincent の血がたっぷりと入ってきて、なんというかルーツに忠実なのもここまでくると清々しいなあと再び面白みを感じてきたところです。5月5日に出るこのニューアルバム、果たしてどうなっているんだろう。



その他備忘録的に気になる新譜もろもろ


 Loop 四半世紀振りの新曲。2013年に休止していた All Tomorrow's Parties フェスが復活(今回は Nightmare Before Christmas というイベント名だそうです)、そこに出演するにあたり新曲を制作したとのこと。かっこいい。


 これはステキポップス。Talk In Tongues という名前の割にトーキング・ヘッズ感は皆無。



最近読んだ本とか見た映画とか
◆荒木飛呂彦「荒木飛呂彦の漫画術」
 すげえ新書が出てる! と本屋で発見して即買いしたブツですが、結論から言うとそこまで面白い本じゃなかった。笑
 この本では拍子抜けするくらい「正論」っぽい漫画術ばかりが述べられていて、固有名詞を隠しながら読んだらこれがまさかあのジョジョの作者が言ってることだとはまるで思えないくらい、なるほど「王道マンガとはかくあるべし」という趣。それはつまり刺激的ではないということ。言われてみれば、荒木飛呂彦言うところの「王道マンガ」のロジックはたしかにジョジョにも適用されているものだなあ、というカタルシスはあります。でも、この本に述べられている荒木ロジックを完璧に実行すればジョジョっぽくなるかというと到底そうは思えなくて、「結局は作者のセンスのところは言語化不可能なんだな」・・・と思った本でした。
 ただし、「あとがき」の荒木節には唸るものがありました。あれだけを読むために買ってもいいくらいです。


◆映画「はじまりのうた」
bg
 別の映画を見るつもりで映画館に行ったら時間が合わず、予備知識ナシに見たら最高だったという映画。
 昔に見た「パイレーツ・オブ・カリビアン」ぶりのキーラ・ナイトレイでしたが、素朴な美人役をばっちりこなしておりここ最近見た映画の中でぶっちぎり断トツの萌えキャラでした。というのはさておき、内容も本当に素晴らしかった。
 自分が立ち上げたインディ音楽レーベルからクビを宣告された落ち目のプロデューサーと、音楽的に成功した恋人に浮気され失意に沈むシンガー・ソングライターが、ニューヨークのライブハウスで出会い、一緒に音楽を作っていく・・・という文字に起こすと何てクセえお話なんだという感じですが、レコーディング費用がないためにニューヨークのいたるところでゲリラ的にレコーディングをしながら、DIYでデビュー・アルバムを作り上げていくという映画です。
 この映画のいさぎよいところは、現代のミュージシャンのリアルを描くこも音楽業界に一石を投じるでもなく、ただただひたすらに「音楽って素晴らしいよね!」という一切のエクスキューズのないピュアな愛だけを描いたところだと思うのです。お金がないからストリートでレコーディングする、と言いつつバンドメンバーはしっかりプロの演奏家を雇ったり(そのお金は売れっ子のラッパーが気前よく出してくれる)、たまたま愛娘にギターをひかせてみたらすごくいい感じに録れちゃったりと、ご都合主義的な部分は数知れず。また、ここでレコーディングされる音楽も変なスノビズムを感じさせないポップスになっており(イメージとしてはバート・バカラックとのこと)、決して「バードマン」のように先鋭的な芸術性を感じさせるわけでもありません。そう、この映画が注力しているのは、ただシンプルに、そのレコーディング風景を楽しそうに撮ることだけ。僕はその光景を見ながら、別に好みの音楽性じゃないのになあ、とか思いながらボロボロ泣いていたのでした。
 そしてこの映画を見た音楽好きなら誰もが思い返すであろうもうひとつの名場面が、iPodにふたつのイヤホンをつないでお互いの好きな曲のプレイリストを聞きながら夜のNYをデートするシークエンス。そう、片耳ずつシェアするのではなく、セパレータにつないでイヤホンふたつで聴くというのがポイント。このシーンも観てるだけで涙が出てきた。(映画中では二人は恋仲ではないけど)恋人の選んだお気に入りの曲を聴きながら街を歩いて、踊りたくなっちゃったからイヤホンをしたまま夜のクラブに入って、二人だけ周りとは違う曲で踊る、なんてあまりにも最高じゃないか。
 そんなわけで、いまさらちょっと恥ずかしくなっちゃうくらいの音楽愛をただただスクリーンとスピーカーからぶつけられるという、ここ数年でも最高の満足度の映画でした。あまりにも最高だったから珍しく映画の感想なんて書いてしまった。

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